研究発表のレビューです
第11回日本トレーニング指導学会大会にてポスター発表された「大学パワーリフティング選手におけるスクワット時の挙上重量による筋の協調性」というタイトルの研究発表です。
パワーリフティングの研究って日本ではほとんどされていないので本当にありがたい研究です。
この研究を噛み砕いて説明します。
目的
パワーリフティングは高重量を挙上することが最大の目的です。
ボディビルなどのボディメイクと違い一つひとつの筋に意識して効かせるトレーニングをするのではなく、高重量を挙上するために複数の筋を連動し、適切なタイミングで働かせることが重要です。
しかし、どのように複数の筋を協調しているのかは明らかにされていなかったため、スクワット時の筋の協調性を挙上重量別に明らかにすることを目的としています。
方法
対象者は大学パワーリフティング選手7名(性別:男5名, 女2名 身長:168.0±8.7cm 体重:80.0±15.7kg)です。
スクワットの挙上重量は対象者の最大挙上重量(1RM) に対する60%1RM、75%1RM、85%1RM、90%1RMの4条件としています。
n%1RMの負荷の見方はこんな感じです。
ここに記載はありませんが60%1RMはおおよそ20回できる重量です。
表面筋電図を用いて、脊柱起立筋、大殿筋、中殿筋、大腿二頭筋長頭、内転筋、大腿直筋、外側広筋、腓腹筋外側頭の筋活動を測定しています。(筋の詳細については武器屋のHPでご覧ください)
筋活動データから筋の協調性を検討するために、非負値行列因子分解によって筋シナジー解析を行いシナジーの個数を抽出し、シナジーを構成する筋の貢献とスクワット中の活性度に分類して比較した。と書かれています。
非負値行列因子分解とは非負値しか取り得ないデータを分析する方法で、簡単にいうと「何に使えるのか、どのような性質があるのか、どのように求めるのか」を解釈する統計モデルのことです。
筋シナジーとは多数の筋の活動に見られる協調構造のことです。
結果
どの負荷条件においても筋シナジーの個数に変化はなく2つ確認されたようです。
1つは外側広筋、大腿直筋、脊柱起立筋(シナジー1)で主に構成され、60%1RMで6/7名、その他の3条件では全対象者に認められた。
もう1つは脊柱起立筋、外側広筋、大臀筋(シナジー2)で主に構成され、60%1RMで5/7名、75%1RMで4/7名、 85%1RMで5/7名、90%1RMで6/7名に認められた。
シナジー1の筋活動は、下降するにつれて増加し、挙上局面前半にピークを迎えていた。
シナジー2の筋活動は下降局面前半と挙上局面後半で高値を示していたとのこと。
筆者の考察
・シナジー1は、挙上重量に関わらずスクワット動作に共通して重要なシナジーであり、下降局面のしゃがみ込む動作において体幹の前傾や股関節・膝関節角度をコントロールすることに関与していると考えられる。
・シナジー2は、大殿筋が関与しているため股関節屈曲角度が小さい姿勢での股関節伸展動作に関連し、立位姿勢からしゃがみ込みを開始する時や、挙上動作の後半に大きく関与するシナジーであると考えられる。
トレーナーをやっている人や健康目的にスクワットをしている人はおそらく「!?!?!?!?」っていうリアクションじゃないですかね。
膝や股関節角度のコントロールならハムは!?って。
私もなりましたが、あくまでもパワーリフティング競技の動作における筋の協調性を調べる研究です。
確かに300kg近く挙上する人でも骨盤は後傾してる、膝はガッツリ前方に飛び出している人いっぱいいるんですよね。
ある会員さんにインタビューしたところ「リフターの人ってめっちゃ強い人でも100kgで怪我したりするやん?そーゆーことやで。」と。
めっちゃ納得してしまいました笑
単独のデータはなかったので細かく分析すればおそらく動作へ多少の関与はあるのでしょうが、スクワットを挙上するためだけの目的においてはただの拮抗筋でしかないので、できるだけ関与はさせずに挙上するという習慣が身に染み込んでいるのでしょう。
トレーニング指導においては膝関節への剪断力を低下させるためにヒップヒンジを協調し、ハムストリングスを効果的に力発揮させ膝関節を前方に押し出さないようにコントロールをするというのが常識だと考えています。
ベンチプレス競技を始めてみて感じましたが、基本に効かせることは考えず挙上すること目的なのでトレーニング要素とはかけ離れているんです。
いかに自分の身体に合ったフォームを見つけて効率よく挙げるか。
これが全てです。
いつの日かパワーリフティング選手に対しS&Cトレーニングを処方できるようになれば面白いなと再確認させられる研究でした。
成相美紀, 今井厚, 三浦重則, 石井泰光: 大学パワーリフティング選手におけるスクワット時の挙上重量による筋の協調性, 第11回日本トレーニング指導学会大会ポスター発表より
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